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【檻底の毒】

逃げ道を塞いでいくお話。

 あらゆる世界から隔絶された、檻のように真っ暗な部屋に君と僕の二人だけが存在する。かたかたと小刻みに震える君の身体を宥めるように抱きしめるも、冷たい僕の皮膚では余計に君を凍えさせるだけだ。そんなことは僕も君も、ずっと前に気付いている。けれど目を逸らして気付かないフリをする。そうして僕ら二人は寄り添って生きてきた。いや、寄り添っていたというのでは語弊があるかもしれない。本当は、何度も逃げ出そうとした彼女を、僕が繋ぎ留め続けていただけなのだ。俯いて僕の腕の中で微動だにしない君は、ゆるゆると顔を上げて、じっと僕を見つめた。喉奥に詰まった毒林檎の欠片を吐き出そうとする白雪姫のように、彼女は呪詛を吐く。僕を遠ざけようとして、毒を吐く。

 貴方は、私が貴方の思っている私でなくても愛してくれる?
不安げに呟く君を、返事をする代わりに強く抱く。君は度々同じことを言う。君は、僕が本当の君を見ていないと思っている。
私は、本当は醜くて、歪んだ人間なのよ。上手く隠していたから気付かなかったのでしょう。
 僕は笑いたくなる。上手く隠せている、なんて君は本気でそう信じているんだ。
知っていたよ、君が本当はどんな人間か、なんて。知っていて、知らないフリをした。そして僕は知らない振りをして、綺麗な君だけを愛しているフリをしているんだ。君を欺いている、真に汚い人間は僕だ。
 僕は彼女の向こうに蟠る、深い闇を睨む。そうして、優しく彼女の耳元で囁いた。

 『ねえ、僕はどんな君でも好きだ。どんな君でも受け入れるよ』

 彼女は僕の声にふるり、と身を震わせる。僕の言葉一つひとつに反応するそんな君が、たまらなく愛おしい。
お願いだからもう私を解放して。
君は弱々しく僕の胸を押し返す。
これ以上貴方の側に居たら、私は悍ましい感情に押し潰されてしまうわ。嫉妬、独占欲、疎外感、劣等感。あらゆる感情が私の中で渦を巻いているの。もう限界だわ。貴方の側に居ては、私は壊れてしまう。
 ああ、そうやって狂おしいほどの愛の言葉を吐く君を、僕はどうやって手放すことができるだろう。そんな理由を並べて、僕の元から去ろうとする君を僕はどうやって逃がすことができるだろう。

 『構わないよ』

 君がはっとして僕を見つめる。彼女の夜色の瞳に僅かに日の光が宿る。縋るように僕を見る彼女の何といじらしいことか。そんな君の希望を粉々に打ち砕くことに、僕は抑えることのできない興奮を覚えている。僕は彼女の柔らかで豊かな髪に顔を埋める。そして、微笑みながら言葉を繋ぐのだ。

 『構わないよ。君が壊れてしまっても構わない。僕を愛して愛して、愛するあまりに狂っていく君を見せておくれ。僕に囚われるあまり、壊れるほどの恐怖に苛まれる様子を見せておくれ』
君は息を飲んで、そして熱い吐息を漏らす。君が僕を愛してくれている限り、僕は絶対に君を離したりしない。
僕は君の最も側で、壊れていく君を見ていたい。君が悶え苦しんで、僕の為に壊れていく様を見続けたい。そうでもしないと、臆病な僕は君に愛されていることを実感できないんだ。ごめんね。

 君は一言も発しない。その代わり、僕の胸に額を押し付けて小さく肯いた。それは僕の懺悔に対する赦しにも、僕らの歪な関係に対する諦めにも感じられた。

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【 2014/10/29 (水) 】 小説 | TB(-) | CM(0)
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