2017年10月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2017年12月

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【 --/--/-- (--) 】 スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

【私の脳に巣食うフィラリア】

夢現の境界が曖昧なお話。


 
 チワワが、襲ってくる。
 
 チワワが、ヨークシャーテリアが、ミニチュアダックスフンドが、私の顔を見た途端に歯を剥き出して、或いは低い唸り声をあげて私に襲い掛かってくる。奴らは10メートルほど離れたところから私の姿を見つけては飼い主の手を振り払って一目散に駆けてくる。そうして私に飛びかかってはその愛くるしい顔を、安っぽいホラーゲームに出てくるアンデットのように歪ませては私に噛みつかんとするのだ。
 経験上、一度でも奴に屈服してしまえば後は骨の一片も残さずに奴らの胃袋に収められてしまうということを、私は知っている。今までに何人もそういう犠牲者を見てきた。

 そして、今度のターゲットは私だというわけだ。
リードを引き摺り、突進してくるチワワ。私は腰を屈めてじっとタイミングを計る。そして、敵が私の守備範囲に踏み込んだ瞬間、私は左足を軸に体を捻ると爪先をチワワの真っ黒な鼻面に叩き込んだ。
 きゃうん、なんて情けない悲鳴を上げて地面に叩き付けられるチワワ。憐れみなどはこれっぽっちも感じやしない。だって、こうでもしなくては死ぬのは私の方なのだ。まだ死にたくなどない。死ぬにしたって犬に食われるなんて真っ平御免というものだ。
起き上がろうとするチワワにトドメの一撃を食らわせると、そいつは私の靴の下でぐったりと目を閉じた。殺したわけではないと思う。それでは流石に後味が悪い。
 一目、飼い主の面を拝んでやろうと顔を上げる。暴徒化した小型犬の主は、自分の愛犬が人に襲い掛かったというのに、未だに私の10メートル手前でぼんやりと立ちつくしていた。リードの離れた手をぶらぶらさせて表情のない目で、息を荒げる私を見ている。
 くそっ。私は口汚く吐き捨てた。やつらの飼い主は皆こうだ。まるで魂を抜き取られたかのような、生気の無い顔をしている。犬に操られているかのようだ。人食い犬に操られて、犬の生き餌探しに付き合わされる飼い主。吐き気がする。

 今度は背後から衝撃。そして生臭い呼気。直感する。新たな敵だ。
先程のチワワより一回りは大きい。犬種を確認している暇などない。もとより私は犬にあまり興味がないのだ。背中の犬を地面に叩き付けるように坂道を転がる。私自身多少は怪我をするだろうが死ぬよりは余程マシだ。


 

 そうこうしているうちに目が覚めた。すでに日の光は高い。毎夜毎夜、奇妙奇天烈な夢を見る。魘されることなどとうの昔に無くなった。
 私の頭はおかしいのだと思う。だけれど、家族も学校の先生も友人も診療内科医も精神科医も皆口を揃えて私を異常がないという。
 異常がないわけではない。私の擬態がうますぎるのだろう。完全に狂っていたなら、私も楽であったろうに、残念な話だ。

 


何の気無しにふらりと家の外に出てみる。大通りまで足を伸ばせば、相変わらず往来は行き交う人々で溢れかえっている。正面からは赤いワンピースの女が、これまた赤い犬のリードを引きながら歩いてくる。すれ違う瞬間、今朝の夢を思い出してリードの先をちらりと見やった。
あ、思わず声が漏れる。リードにぶら下がっていたのは犬などではない、人間の頭部だ。人頭が、リードにぐるぐるに巻かれて引き摺られている。どれほど引き摺り回されていたのだろう、それの頬肉はずたずたにこそげ落ちており、飛び出した片方の眼球は神経で辛うじて眼窩に繋がっていた。
 “飼い主”が歩いてきたであろう道には、真っ赤な帯が広がる。肉塊から目を背けずにいると、そいつは腫れ上がった唇を持ち上げて血に塗れた歯を覗かせた。ゆっくりと舌が蠢く。それを注視する。
 ツギハ オマエダ。
そう言った。そいつは、私に向かってそう言った。




はたと気付けば肉塊も、道に延々と続いていた赤帯も忽然と姿を消していた。その代わりに赤いワンピースの少女に連れられたチワワが、黒い鼻面をひくひくさせて私を見つめていた。今の今まで肉塊だったソレが今ではチワワだ。そんなわけがあるか。私は小型犬を睨み付ける。はっはっ、と息を吐く子犬。何も、妙なところは無い。そうだ、それが正常だ。おかしいのは私なのだ。
 ゆっくりと立ち上がる。今は現実だ、夢の中ではない。しっかりしなくては。
確かめるようにチワワを確認する。




 そいつは、私を見返しては嘲るように、ニタリと笑った。
スポンサーサイト
【 2014/09/10 (水) 】 小説 | TB(-) | CM(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。