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【船が導く逢瀬】

救済に溺れたい少女のお話。


 
 その海辺にはカフェがある。
そこの窓際に、私は何も言わずに座っている。遠い昔にここで会おうと約束したのだ。私はその約束を果たす為に毎年、雨が降るこの日にこの場所を訪れる。
 陰鬱な、というよりは怒り狂っているような空を眺める。雨粒が空の遠い彼方から凄まじい勢いで垂直落下して、私の眼球を抉ろうとする。耐え切れなくなった私が思わず顔を伏せて、そして初めて雨が降っているのは窓の外だと気付くのだ。
 再び窓と覗けば、強すぎる雨のせいで外の景色などろくに見えやしない。それでもじっと目を凝らせば帰ってくるような気がするのだ。真っ黒にとぐろを巻く海の底からあの子が。




 10年前のあの日、まだ幼かった私は泣きながら土砂降りの中を歩いていた。何処にも居場所など無かった。誰からも存在を否定され、受け入れて貰えない私は行く宛ても無いままに歩いていた。酷い雨が私の体を穴だらけにして、バラバラになった肉片を何処へでも押し流してくれれば良いとそんな空想を巡らせながら歩いていた。体を穿つ雨粒はとても痛かったけれど、周囲の大人から振るわれる拳に比べたらどうってことは無かった。今日のように雨足が強くてその所為か、溢れて溢れて止まらない涙の所為か、自分が何処を歩いているのかさえ定かではなかった。その時、唐突に私の目の前に巨大な白い壁が現れた。目を凝らせばすぐにその正体は分かった。貨物船だ。嵐の中に放置されもみくちゃにされているその姿は如何にも寂しそうで、何だか無性に切ない気持ちになったのを覚えている。無機質に打ち付ける雨の合間に押し寄せる波の音が船の泣き声のように聞こえ、私はまた一歩貨物船に近付く。そのまま進めば私の体は海の中に真っ逆さまに落ちて、この世界のあらゆる苦痛から解放されるに違いない。その瞬間の私はわずかに微笑んでさえいただろう。

 そして、私の自殺願望は叶わなかった。

 今にも荒れ狂う海中に飛び込まんとする私の手を引く者がある。振り返ればそこには、傘も差さずにずぶ濡れになった幼馴染が険しい顔で立っていた。手を放してよ、と呟く私に彼は一層強く私の手を握った。
 僕が手を放したら君は死ぬだろう。生きていてどうしろと言うの?こんな地獄みたいな世界に。
 多少の押し問答の末に、彼は私を優しく、そして強く抱きしめた。冷たい衣服の上から、暖かな体温が伝わってきて、どうしてか私の鼻の奥はじんじんと痛んだ。僕が、きっと君を幸せにする。だから、お願いだから死ぬなんて言わないでくれ。そう言って私のぐしゃぐしゃの髪に顔を埋めた彼は、その時確かに泣いていた。私たちは海岸の上でしばらく、お互いの胸に縋り付いて泣いた。やがて、雨が上がって雲の切れ目から空が覗くと彼はやっと顔を上げて、そして照れくさそうに笑ったのだ。
 私もつられて笑ってそして、

 彼を足元の暗闇に突き落とした。

 『幸せにするなんて嘘は信じない。私はこの先も幸せになんてなれっこない。期待させないで、私はこれからも独りでこの地獄を生きていくの』

 それでもあなたが情けを掛けてくれると言うのなら、貴方は私を恨んで恨んで、土砂降りの日にきっと私を貴方の元まで引き摺りこんで。その時にきっと私は救われるでしょう。
 落ちていく彼は確かに肯いたように見えた。これが私と彼の、随分と一方的な“約束だ”。



 私はその約束を果たす為に毎年、雨が降るこの日にこの場所を訪れる。
いつかあの幼馴染が私を海の底に連れて行ってくれる、救いの日を待ち続けて。
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【 2014/07/30 (水) 】 小説 | TB(-) | CM(0)
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