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【永遠の愛を捨てた水底の花嫁】

愛を伝えられない新郎と、愛より永遠が欲しかった花嫁のお話。


 『貴方を愛していたわ』

君は新月の光に胸を貫かれ、息も絶え絶えに言葉を吐き出す。新月光の硬質な冷たさを帯びたその言葉は、鋭利な棘となって、やはり僕の心臓を貫くのだ。
 『もう僕を愛してはくれないの?』
 『もう貴方を愛してはあげられないわ』
僕の問いに、君は表情を歪めながらも即答する。
どうして、どうして君は僕を愛してくれないの。僕は君を今も愛している。

 『分かっていないの?馬鹿な貴方』
君はクスクスと笑う。君の笑い声に呼応して、姿の見えない月はぼろぼろと形を崩して闇夜の中に飲み込まれていく。

 『もう私には君を愛することは出来ないよ』
その意味を、僕は必死に考える。“君の躰と一緒に頭部を失って”しまった僕は、脳で考えることが出来ない。だから、君を愛し続ける心で、君の言葉を聴く。
 『君は愛することは出来ないけれど、まだ僕を愛していたいって思っている?』
 『愛していたいって、思っていたわ。けれど、今はそう思うことすら出来ないの』
貴方はやっぱり分かってない、そんな調子で君は溜息を吐く。
 分からない。君の言葉が、僕には理解出来ない。だって僕はまだ愛しているんだ。その意志はこんなに強く僕の心に残って君を解放しようとしない。

 『気付いて。想いは残るものじゃない。その時その時に、心の底から溢れてくるものなの』
残る、そう表現した時点で貴方の愛は今この瞬間のものではなくて、もっとずっと昔のものなのよ。
君は諭すように言う。
 でもやっぱり分からないよ。君の理屈は理解できても、君への愛は僕の心の底に、澱のように淀み溜まって消え去る気配が無い。君が受け入れてくれないのなら、僕の抱えた苦しみは何処に還せばよいのだ。

 『受け入れないのは、貴方の方じゃないの。』
付いて来て。君は真っ白なドレスの裾を翻して、城の奥へと歩んで行く。一瞬、僕の視界を覆ったそれは、じっとりと水気を含んでいてまるで深い霧の中のようだ。

 どんどん歩みを進める君は、バルコニーへと続く硝子窓を開け放つ。そこから見える夜空には、赤い満月が浮遊していて、それが暗い海を赤黒く照らしている。
いいや、照らされているのはそれだけではない。バルコニーの内側、そこに打ち捨てられた見覚えのあるウェディングベールと、白亜の手摺りから身を乗り出すように海をのぞき込む、“僕自身の亡骸”。
 力無くぶら下がった腕を掴んで顔を覗こうとすれば、叩き切ったような頸部の、グロテスクな断面が見えて僕はゾッとしてその手を放す。

君が笑ったような気配がしてそちらを見れば、先程まで確かに君が居たはずの場所にはただ何もない空間が広がっているだけ。




 『冷たい海の底に沈んだ私は最早暖かな愛を感じず、愛を紡ぐ頭部を失った貴方は心底に溜まる愛を吐き出す術を持たない』
 『私たちは、もう互いを愛せない』

ごめん、僕は呟いた。忘れていたよ。愛という澱から逃れるこのが出来なかった亡霊は、愛で出来た檻に愛しい花嫁の魂を捕らえ続けた。
 もう、やめにしよう。僕の精神も、今から君の元へ行く。
 
 愛している、愛していたから、僕は僕自身と君を殺した。愛を永遠のものとしたかったから。でもそれは間違っていた。人である以上、肉体と霊魂が離れては愛を生み続けることなど不可能だったのだ。
これからは二人で、海の底でいきよう。愛を紡げない心を以て、愛を感じない冷たい躰の君に寄り添おう。

 現実の内側に、もう二度と君の躰に触れることのない亡骸を置いて、僕はうねる赤黒い水面に身を投げた。





 やっぱり分かってないじゃない。
僕の魂の質量が冷たい飛沫を上げる瞬間、君はそう言って笑った。

 
 『貴方を殺したのは、この私なのに』
私は愛など無くても、愛した貴方と永遠に冷たい海を揺蕩いたいの。
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【 2014/07/30 (水) 】 小説 | TB(-) | CM(0)
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