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【彼の終戦】

世界が五月蠅くてあなたの声が聞こえないお話。



 誰も、悪くないのだ。そう、これは言ってしまえば事故だ。

 俺は僕は軋む体を両手で抱きしめながら、自分に言い聞かせた。一体、誰に責任を取れと言うのだろう。誰もが最期の一滴まで血を流し切り、戦ったこの戦争。始まりはどこだったろうか。

 『痛い、よ』

 誰に訴えるでもなく、呟いた。だって誰も僕の声なんて聞いちゃいないんだ。死にかけの、敗残兵の、断末魔なんて。みんな耳を塞いで戦っている。
 誰に、聞いててほしいなんて、そんなこと思ってない。なのに、何故か涙が止まらなかった。
痛いからじゃない。痛みなんてとっくに鈍い痺れに代わっている。
 ただ、最期に、あの人の横顔が見たかった。それだけなのだ。




 会いたい会いたい会いたい。どれだけ祈ったって、その願いが叶うことはない。
だってあの人も、今頃血に塗れながら戦っているのだ。せめて、何も思い残すことはないと、そう装って死ぬのが、僕があの人にできる最善のことだった。

 兵士が僕の体に躓いて、思いっきり転ぶ。
五月蝿いよ、頼むよ、静かに死なせてよ。今必死にあの人の声を思い出してたんだ。僕が死んだら良くやったって、きっとあの人は褒めてくれるだろう。ね、そう思えば僕は幸せに死ねるんだから、さ。

 


 内臓がはみ出してたって人間はそうは死なないものだ。
死にかけてる僕には分かる。まだしばらく意識は途絶えないだろう。
 銃弾の音、爆発、土煙、怒号。それらを僕はただ聞いている。それらから解き放たれて、そしてやっと、ゆっくり僕が生きた世界を聞くのだ。全く、五月蝿いったらありゃしない。

 本当に聞きたい声は聞けないくせに、耳を塞いだって聞きたくないものは聞こえてくる。
もう嫌だよ。どうしてこんなに不幸せなんだろう。
終わりよければ全て良し、なんて、こんな無様な僕に対する嘲笑だ。いっそのこと声を上げて泣き叫びたい。潰れた喉じゃあもう声さえ出ないけれど。

だんだん視界が暗くなってきた。やっと死ねるのかな。死んだら苦しい思いをしなくて済むかな。




 ねえ、あなたは死なないでね。
伸ばした手は、何も掴むことなく地に落ちた。
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【 2014/07/30 (水) 】 小説 | TB(-) | CM(0)
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